月のウサギは青い星の瞳をしているのか 〜キサンドリアの反乱〜
第10章 ビクトリア
「ボクはコーエン、コーエン・ゾーフェン
フォン・ブラウン市から姉の出張の仕事に付いてきたんだけど、姉がケガしてしまってね
眠ってしまって退屈だから出てきたんだ
この〈アガルム〉の街は初めてなんだ」
部屋のコーヒーに飽きてきたコーエンはこの繁華街の屋台の炭酸ジュースが美味しく感じた
「わたしはキアラ、わたしも同じようなものよ
〈グラナダ〉からお兄チャンとお姉チャンと逃げてきたの
でも二人は仕事で忙しいの」
外界にほとんど出たことが無かったキアラもまた屋台の炭酸ジュースを気に入った
ちょうど屋台のテレビモニターがニュースをやっている
月の裏側〈グラナダ〉の紛争
ネオ・ジオンの旗揚げ
それを支援する筈の〈キサンドリア〉の内乱
民間人は紛争から逃れるべくシャトルや地下の高速鉄道へ駆け込み街からの脱出を試みている映像が流れる
タイミング良くニュースが流れていたため、
コーエンもそのまま鵜呑みにしたようだ
〈こんな小さな女の子まで避難民なんだな〉と納得した様子
キアラは気にもせずジュースを飲んだ
「キアラ、お姉さんとお兄さんはなんの仕事しているの?」
「んん〜? なんだったっけ? メーカー?
ふたりとも会社で働いてた」
コーエンはふぅんと頷いた
〈鉱山都市だからなぁ、どこかの営業マンなんだろうなぁ、グラナダが戦火に巻き込まれそうだからアガルムで売り込んでいるんだろう
小さな女の子を連れてタイヘンなんだな〉
コーエンは勝手に想像をふくらませていた
まさかこんな小さな女の子が巨大な秘密兵器の関係者だとは思わないだろう
「キアラ、天体ドームのある場所まで上がってみようか?」
コーエンは健気な少女が退屈しないようもてなそうとした
「うん、行こう行こう!」
ふたりは地下層の繁華街を離れて月面上の球体ドームのある最上階へ向かうのだった……