ジェンダー・ギャップ革命
第4章 享楽と堕落の恋人達
昼間の無人の公園で、織葉は斎藤と話を始めた。
織葉が彼の店に通っていたのは間違いなかった。当時、ことあるごとに彼女は顧客や上司達のハラスメントの愚痴を彼に聞かせていて、男にしては珍しい彼の感性が、彼女をなごませていた。
「こうきは、謝らないで」
「…………」
「六年、楽しかったよ。こうきみたいな友達、あの頃の私にはいなかった。気持ちも嬉しかった。本当に好きだったこともあるの、気付いてた?」
「当たり前さ。俺、でもあの時は、信じられなくて……俺みたいなのが、まだ、早とちりして浮かれるなって……」
「お義母さんの娘じゃなくても、私はこの仕事を優先してた。仕事と恋愛の優先順位って、人によって本当に違うんだなって、思い知っちゃった。貴方には幸せになって欲しい。英真ちゃんとしづやちゃんの友達なら、百目鬼さんは本当に素敵な人だと思う。私も、気になる人はいる、から。……貴方じゃない。その人と生きていきたくなったら、どっちを選ぶかは私が決める」
「っ……」
世界が急激に色を失くした。愛津は捕まれるような何かを探した。
冬空は、心地良い寒気を注いでいる。こんな日に本当に目眩は起きない。
ただ胸が痛い。身体中から生きるために必要なものが抜け落ちていく感覚が、愛津に肉体の消失を予感させた。そんなことはありえないのに。
織葉には想い人がいる。しかも現在進行形で。
周りに第三者の気配など察してもいないだろう斎藤は、青白い顔で微笑んでいた。糸を失くした操り人形の足どりで、来た道を引き返していく彼が、愛津には自分の姿のように思えた。