ジェンダー・ギャップ革命
第5章 良人の娘と寝る女
織葉を見つめる愛津のおとがいを、彼女の指先が支えた。
彼女の濡れた輝きを秘めた目を直視するのは、勇気がいる。その清冽な透明感が、愛津の醜い部分まで浮き彫りにしそうで、怖い。何もかも曝け出して受け入れられたい欲望と、彼女の中の愛津という見せかけだけを愛されたい臆病とが、せめぎ合う。
「私は、世界の終わりはイヤです。生まれ変わって、また織葉さんに会える保証はないんですから」
「……敬語、やめて?」
「え、っと、……」
「私達もイチャつこうよ。どうせ周りはほとんど酔ってる」
「う、うん……」
幸福の許容量を超えた身体を、ついに支えきれなくなった。
ふらついた愛津を受けとめるように抱き締めて、織葉が唇を近づけてきた。
自然と愛津の瞼が下りる。生まれる前から知っていたようにして、キスしやすいよう唇が隙間を作った。
触れるべきものは、いつまでも触れてこなかった。
愛津の顎を撫でた指先が、唇をなぞった。
夢心地の中に見る織葉の顔が、気まずげに申し訳なさげに影を落としていた。
「やめとこ、っか……」
「…………」
「一応、ルール違反だし。暇なネットニュースなんかに載ったら、色々怒られる」
「あ、そっか、そう、ですねっ」
織葉の言葉をそのままの意味で受け取れたのは、とっくに愛津が夢見心地に落ちていたからだ。
砕けた言葉で話すことに慣れない愛津は、何度も指摘を受けながら、彼女との関係の変化を実感していた。今しか撮れない写真をたくさんスマートフォンに収めて、仕事やプライベートの話をして、閉園のアナウンスが流れ出すまで、愛津は織葉と広場にいた。