ジェンダー・ギャップ革命
第5章 良人の娘と寝る女
春の気配に似た良い香りがする。織葉の優しく胸の奥まですっと染み通ってくる声が、愛津の耳を愛撫している。彼女のまとう雰囲気が、愛津を直接抱いている。
夜闇の色に酔わされて、愛津は、普段より大胆な気分になった。
「勘違いしてしまいそうです」
「もしかして私が愛津ちゃんを好きじゃないかって?」
「織葉さん、女性支持率すごいんですよ。私だって例外じゃないかも知れません。勘違いして、粘着なストーカーにでもなったらどうされるんです?」
夢にまで見てしまったくらいだ。
織葉を泊めたあの朝、愛津は目を閉じたまま、彼女の告白を受ける夢を見た。
「してよ」
「…………」
「愛津ちゃんが追いかけ回してくれたら、世界が終わっても悔いはない」
「っ……」
いつかの愛津自身の胸中が、デジャブした。
愛津は織葉に黒目を動かす。金色にも薄紅色にも見える柔らかな光を背負って、優しい微笑みが愛津を包んだ。
「何もないです、よ。私なんて、織葉さんを好きな気持ちと、幸せになりたいって欲望しか、持ってません」
「十分だよ」
「いわゆる太い実家でもないですし……」
「失礼だけど、知ってる。でも愛津ちゃんとは対等。雇い主は同じでしょ」
「織葉さん……」
やはり周囲はカップルばかりだ。
互いに顔が見えるまで距離をとって、腕を絡めた愛津と織葉は、もう彼女達に倣うのをやめていた。しかしさっきまでより格段に近い。
好きだ。好き。こんなにも誰かを好きになったことがない。こんなにも誰かを想って苦しんだことがない。