ジェンダー・ギャップ革命
第6章 異性愛者差別
パステルカラーが多くを占める母娘のタオルが蛸足ハンガーに並んだところで、えれんもキッチンの片付けを終えていた。
籠の中の鳥のごとくえれんは、二つの顔を併せ持っていた。
配偶者に失望した弱い女と、懐の刃を研磨する、ぎらつく希望を秘めた指導者。
後者を想起する目を細めて、彼女が織葉に身をすり寄せた。
「仕方ないわ。私があの人に気に入られたのは、二十代。それから十何年も一緒にいて、飽きて当然。家事でもさせなければ、一緒に住む意味もなくなるでしょう」
「お義母様は、見飽きないほど綺麗だよ。自信失くしたらもったいないよ」
「綺麗に見せたくて、繕ってるのよ。家には貴女がいるんだから、……でもお化粧落としたらどうかな?」
それからえれんは、諧謔ついでにこうも続けた。
「織葉にこうして心配されて、共同作業みたいなことを出来る時間は、嫌いじゃない。私が嫌いなのはあの人だけよ」
織葉にとって、えれんは何だったのだろう。
もとより大越湊斗に対しても、織葉は世間一般に娘が父親に向ける感情とは逸脱した悪意を感じていた。
えれんが織葉に女の顔を垣間見せるほど、その悪意は具体的な姿をとった。