テキストサイズ

ジェンダー・ギャップ革命

第6章 異性愛者差別



「お義父さんって、忙しいの?片付けるの苦手なの?」


 その日も織葉は洗濯物を部屋干ししながら、とっくに出かけた家主の汚した食器を洗うえれんに向かって、話を振った。

 毎朝、大越は小匙一杯の不快を残していくようにして、えれんの手間をとらせるための仕事を置いて、家を出ていた。 

 織葉は彼女との朝食のあと、出かける時間のぎりぎりまで、よく彼女を手伝っていた。


「女がやって当然と考えているのよ。私ならもし男に生まれていても、これくらい片付けてから仕事へ行くわ。でも、文句言えない。言ったら、じゃあ専業主婦が他に何をするのか──…って、私が怠け者に見られるだけだもの」


 まだ家政婦の出入りもなかった当時、えれんに社会との繋がりはなかった。経済的な事情から、彼女が家庭に入る他に選択肢のなかったことは聞かされていたし、ごく少数の親友達と大越だけが、血縁者を除く彼女の人間関係の全貌だった。それだけで織葉が彼女を同情する理由として、十分だった。

 だがSNSが発展して、織葉は世間の夫婦の暮らしについて、同級生ら以外からも情報を得るようになった。その時、えれん達の異常性に気付いたものだ。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ