ジェンダー・ギャップ革命
第2章 唾を吐く貧民
憂いのない日々は、五年前、突然、終わった。
当時、世間を震撼させた大量リストラ、円安による物価高騰からの不景気だ。
まず母親の収入が激減して、愛津も休日手当ての廃止やシフトの見直しの対象になった。特別に贅沢な暮らしがしたいのではなかった。ただ、友人と会うための交通費を億劫に感じたり、光熱費を心配して就寝時間を早めたり、当然に出来なければいけないはずの日常生活が窮屈になった経済的な凋落は、節約して乗り越えられる範疇を超えていた。どれだけ働いても、安価な食材や消耗品を選び歩いても、生理になればナプキンを買うために飲み水は我慢しなければいけなかったし、仕送りのために学生時代に使っていた教科書やジャージを売って金を作った。
あの三年、よく生き抜けた。
両親は帰ってこいと促してきたが、愛津の中で、人は人を助けないという思いが強まっていた。従業員らの事情を分かった上で、利益に見合わないシフトは作成しない店長も、売り上げの低迷した店に来て、冷やかしだけで帰る客も、娘の収入がどれだけかも確かめず、仕送りが遅れれば催促してきた両親も、皆、我が身が可愛かったのだ。
愛津も、我が身が一番可愛かった。