ジェンダー・ギャップ革命
第2章 唾を吐く貧民
神倉織葉は、愛津の固定概念を覆した。
七光や人脈、金の力にものを言わせて、社会という玩具を手にした白痴達。それが政界にいる人間に抱いていた偏見だったが、仕舞いには愛津が踵を上げてようやく姿が覗けるほどに集った群衆の中で話を始めた織葉は、愛津の脳天を撃ち抜いた。
初めは女達も、彼女の見た目に釣られたのかも知れない。
蝋人形のように白い肌は、彼女のシャープな輪郭もあってより人間離れした神秘的なものを匂わせていて、切れ長の目元に知的な人となりを滲ませた口元、やや癖のある長い黒髪は、時折、強く陽が射した時、青みがかった天使の輪が浮かんだ。細身ながら適度な鍛錬が想像出来る身体の線をもったいぶらせていたのは、洒落たシャツにタイトなボトム。七分袖から伸びた腕が、彼女がマイクを握り直す度にしなやかに動くのさえも、愛津の官能を刺激した。
だが彼女が話し終える頃、思い入れ深い映画が完結してその先に思いを馳せる時のように、愛津は肌の毛が一斉に立つのを感じながら、名残り惜しさを覚えていた。
心ゆくまで織葉に拍手を送った女達は、彼女に写真を求めたり話しかけたりして、なかなかその場を離れなかった。
ようやく空いてくると、愛津と同じように離れた場所で頃合いを見ていたらしい女の方にも、さっきの聴衆が群れをなしていた。
「えれんさん待ちですか?」
「ひゃっ」
「ごめんなさい、急に驚かせてしまいましたね」
「いえ、あの……」
頭の中が真っ白になった。
織葉よりおそらく三十近くは年長の、あの艶麗な女は何者か。愛想が良く胸の豊かな茶髪の女を傍観していた愛津に話しかけたのは、今しがたまで耳を蕩していたあの声だったのだ。