ジェンダー・ギャップ革命
第9章 安息を望むには苦しみ過ぎた
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事務所を離れていた間、織葉は、実母を名乗っていた泰子とよく話した。
ここ数年で構築された社会体制や風潮は、万が一えれんが抜けても、彼女を支持した為政者達が、彼女の意志を継いでいく。拷問や処刑もすぐに廃止出来るものではなく、今機能している少子化対策を打ち切れば、各方面の受ける打撃は計り知れない。
それが泰子の見通しだった。ただし風向き次第では、えれんを始め、刑事責任を免れられない職員も出てくるだろうとも補足した。
「織葉がえみるちゃんを気にかけるのは、巻き込んだから?彼女だから?」
「そんなこと、若松さんに話す必要ある?」
「表向きには、母娘でしょ」
「……だよね。どこで何聞かれるか、分からないもんね」
えれんとの血縁を意識したのは、いつだっただろう。
物心ついた頃が、最初だった。泰子と面識を持つまで、当然、織葉はえれんを母親と認識していた。
えれんの都合の良い嘘に、騙されていたかった。人が人を愛するにおいて、正否はいらない。彼女の茶番が成立してさえいれば、世間的にも合法に、織葉は彼女のものでいられた。