ジェンダー・ギャップ革命
第10章 正義という罪悪
春先のワンピースをトレンチコートにくるんだえみるは、最近、強気な言葉つきを出すようにもなってきた。Angelic PrettyやEmily Temple Cuteの明るい洋服を選んだり、チェリーピンクの形状記憶パーマの髪を毎日つややかにセットしたりしているところから、身ごしらえに気力を注げるくらいになったのだろう。
えれんとは、母娘ともただの仕事の間柄ともつかない関係が、続いている。きっと今にもこらえたものを抑えきれなくなるくらいには互いを意識していながら、織葉達の私生活は禁欲的だ。
ある役員の調べによると、長沼そうまと繋がっている人物が、えれんの近辺を嗅ぎ回っていたという。家政婦達まで疑うつもりはないにしても、今回の件があってから、織葉達は自宅にいる時間まで、党首と役員という姿勢を崩さなくなった。
こうした状況下、織葉がえみるとの時間を頻繁に持っているのは、えれんにとっても都合が良いのかも知れない。
織葉は、初め同情で愛津に惹かれた。金銭面で窮屈しなくなったあとも、彼女の過去は、彼女にしつこくまとわりついた。格段に質素で倹約家だった彼女に同情したのは、そもそも惹かれていたからだ。関心も向かない人間なら、同情もしない。
だとすれば、織葉にとって、えみるはどういう存在か。