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真夏の夜の夢

第7章 第六夜


しばらくソファに寝転んでボーッとしていたが
耳障りな音がしているのに気づいた。

カリカリカリカリ…

壁を引っ掻くような音…
隣の部屋を仕切っている壁から聞こえるような…

ガリガリ…

気になってしまうと
やたらと引っ掻く音が大きく聞こえる。

『古い建物だからネズミでも住んでいるのか?』

あまりにも耳障りなので
僕は壁にドンっとパンチの一撃を与えた。

たちまち音が止まり
一瞬で静けさがやってきた。

夕刻になり、近くの定食屋で腹ごしらえをして
マンションに戻りエレベーターに乗り込んだときの事だ。

3階のボタンを押して
ドアがしまったので僕は何気なく目線を上げた。

そして思わずぎょっとした。
しまった扉に僕の背後に立つ女性を姿を認めたからだ。
『いつ乗ってきた?そんな気配なんかなかったのに…』
不気味に思いながらも
こちらも考え事をしていたので
気づかなかっただけなのかもと思った。

「あの…何階でしょうか?」

親切心で行き先ボタンを押してあげようとしたが
女は黙って下を向いたままで返事もしない。

色白で目鼻立ちも整っていて美形だが
こうも無愛想だと男にモテないんだろうな
そんなことを考えている間に
エレベーターは3階についた。

扉が開いてエレベーターを降りると
女は足音もたてずに僕の後ろに着いてきた。

僕が302号室の鍵を開けていると
女は背後を通りすぎて301号室にむかった。

『三階は僕だけだと管理人は言っていたけど…』

なぁ~んだ、お隣にも居住者がいるんじゃないか

僕は特段、不思議に思わなかった。
いえ、それどころか
三階には僕だけじゃないとわかって
内心ホッとしていた。

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