
マッチ売りの少女と死神さん
第6章 1月3日…あと刹那のその時まで
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朝もまだ早くから、港沿いの道は人で賑わっていた。
真横を通る大通りは荷物を積んだ馬車や幌を引く自転車が殆どで、その向こう側には海に浮かぶ船や何隻ものボートが見える。
「フーン、こっちはまだ車が走ってないんだねえ。 長距離の移動手段は蒸気機関車?」
「………?」
両手にお菓子や飴を持ち、モゴモゴ口を動かしていたサラは、分からないという意味で首を左右に振った。
「見たことないかなあ? 黒くて長い乗り物……こう、煙を出して線路を速く走るやつ」
すると串に刺した揚げ菓子を見つめていた彼女がパッと顔を輝かせて
「ふあの、うりゅひゃひやふでふかっ?」
と言い嬉しそうにブンブン大きく頷いた。
「そうそう、そのうるさいやつ」
(乗ったことはないけど、ちゃんと知ってるわ)
ホーリーはそんなサラに苦笑を返したが、始終優しげな顔付きで彼女を見守っていた。
ニューハウンに来てから、遠慮がちに振舞っていたサラだった。
しかし何か食欲をそそりそうな匂いのする方向に彼女がチラと顔を向けるやいなや、ホーリーが「買っておいで」と店へと先導する。
サラのコートのポケットに、ホーリーはいつの間にかお金を入れてくれていたらしい。
そんなわけでサラの両手はすぐに食べ物でふさがってしまった。
今まで見たことも食べたこともないお菓子の造形や味は確かにサラには心躍るもの。
そしてそれに加え、ホーリーの心遣いが彼女には嬉しかった。
なぜなら、自らは食べない物を彼は自分のために与えてくれるのだから。
