
マッチ売りの少女と死神さん
第6章 1月3日…あと刹那のその時まで
「え……? あ、あの。 大丈」
近寄ろうとサラが一歩踏み出した途端、真っ青な顔したその人は、怯えたように震えているのに気付いた。
「よ、寄るなあっ!!」
男性の視線の先を辿ると、それは正確にはサラではなく、少し後ろを歩いているホーリーに向かっている。
(ホーリーさんが見えるのなら亡くなってしまう人……かしら。 それにしても反応が……おかしいわ)
「寄るなと言われても……通り道だからねえ。 そっちが避けなよ」
ホーリーが男性に言葉を投げかけ、その途端
「ばっ、化け物だあああっ!!」
と叫びながら逆方向に駆けていく。
逃げる、という表現の方がより当てはまるかも知れない。
パン屋の男性は普通に彼に接していたのに? サラは首を傾げた。
「どうしたんでしょう、あの人……? 昨日の人は別に何も」
「サラちゃん、君には僕がどう見える?」
落ち着いたホーリーの声に、困惑した表情のサラが後ろを振り返ろうとすると
「どう」
身体の内側にとどろきそうな鐘の音が辺りに響き渡った。
ゴー…ン────────……
その響きに周りも動作を止め、一斉に耳を澄ませる。
ホーリーがサラに聞いてくる。
「………これは?」
「フレデリクス教会の鐘です。 まだ完全には完成していないらしいんですけど、とっても大きな教会ですよ」
ゴー…ン────────……
ホーリーとサラも話を止め、しばしその音に聴き入った。
重々しくも鮮やかな音色は長く長く余韻を残し、後にはおごそかな静けさに包まれる。
「日に三度鳴るんです。 まさに神様の愛を示す福音ですね」
サラが両手を組み合わせて鐘の方向へ目を閉じる。
「教会の鐘には諸説あるけど、鈴の音が起源ともいうねえ。 悪を追い払う意味があるとか」
「そうなんですね。 やっぱりホーリーさんは物知り……」
感心して彼に顔を向けたサラは絶句した。
