
マッチ売りの少女と死神さん
第6章 1月3日…あと刹那のその時まで
「僕はただサラちゃんを見ていたくってここに来たんだ。 でもこの世界は僕を拒絶するばかりで、もしかして僕は間違ってるんじゃないかって」
「拒絶………?」
独り言みたいに話し続けるホーリーの話す内容はサラにはあまり理解出来なく、それでもサラは彼に耳を傾けた。
彼を分かりたかった。
「雪の夜に君は怯えててさ。 晴れた日に僕の言葉に怒って、僕と一つになって悦ぶ君を見て、今朝は細雪が光る中で君は笑った。 ─────ここはまるで君自身のように思えて………僕は見るものや触れるもの、すべてが愛おしく思えて…たまらない」
それきりホーリーは口を閉ざしてサラの手を取り、無言で歩き始めた。
港と反対方向を歩き、やがて大きな並木道に差し掛かる。
銀雪を枝枝に乗せた数え切れない程の大木が広い道幅に林立している。
「………ここに来た時に、この景色を見たんだよねえ」
立ち止まったホーリーはぐるりと周囲を見渡してから、大きく白い息を吐いた。
「クリスマスが過ぎて、君が一年のうちで一番弱ってる所につけ込むつもりでさあ………あんまり空気が悪くって綺麗でさ」
「………」
「あ、忘れてた」
ホーリーがスタスタ歩き出し、いくつか並んでいたベンチの脇に立ち止まる。
サラは慌ててその後を追ったが、雪に埋もれたそのベンチだけが妙に膨らんでみえた。
「爺さん、もう死んでる?」
膨らみからは返答はなく、
「………驚いたねえ、この寒さで」
そう呟き軽く笑うホーリーだった。
