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マッチ売りの少女と死神さん

第6章 1月3日…あと刹那のその時まで


ややあってその隙間からヒュー、ヒュー、というまばらな呼吸音が聞こえた。

「し……死、神……め」

声の小ささと濁音で聞き取りづらかったが、ホーリーの後ろからサラがそれを覗き込むと、パリパリに凍った髪の隙間から、薄らと空いて光る目が見える。

「ホーリーさ、その人、生きて…っ?」

そのすぐ下はぼろ布やむしろのようなものが被さっていて、雪はこの上に積もっているらしい。
助けを呼びに行こうとしたのか、ここを離れかけたサラの手をホーリーが握る。

「あ、病院とかは無駄だから。 僕が死期を早めたようなもん……かなあ? 爺さんにそんな繊細な神経があればだけど」

「た、他、人……のこ…言え」

「うんうん、分かるよお。 見た目、僕のが酷いかもねえ? そこまで見えてるんなら、じき終わりだよお」

しばらくの間ホーリーは黙っていたが、返事の代わりに老人から聴こえたのはヒュー、ヒュー、ヒューと空気の抜けた細い音だけだった。

「その前にさあ、話したくって。 ヒューイ・クラースって人の名前、聞いたことない? 約20年前の、1864年。 今頃の季節ね。 オーストリア人の奥さんがいたドイツ人男性だけど」

状況がつかめないサラは、その男性と饒舌に話し始めるホーリーを交互に見比べていた。


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