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マッチ売りの少女と死神さん

第6章 1月3日…あと刹那のその時まで



「彼は当時20代だったかなあ? オーストリア人を家族に持っていたドイツ軍人は、特別に庇護を受けていた。 ましてや妻子は民間人だしね。 その奥さんにヤラシー事したのは爺さんでしょ? 部下のクラース氏を死なせて?」

「っち……が……」

(ホーリーさんが話しているのはクラースさんのことかしら………?)

サラが生まれる少し前に内戦があったのは昨晩クラース氏から聞くまでもなく知っている。

「昨晩サラちゃんに聞いて思い出したんだけど、僕の記憶違いかな?」

「わし…は、殺して…」

「ただ上官の権威を傘にきて行かなくてもいい戦地に向かわせただけ? 事実、爺さんだけ途中で戻ってきたし、公にしてなかったけど、あの時はもうドイツ軍は勝ってたもんねえ。 でも奥さんはその後、自責に囚われて自殺しちゃったんだよね」

男性がピクリと身動ぎをして、何か言いたげに目を見開く。
サラにはその壮年の男性が苦しそうにみえた。

「……奥さんさあ、クラース氏は死んだんだって爺さんから聞かされたって言ってたよ」

「ホーリーさん……? もう止めてあげて下さい」

ホーリーは淡々とではあるが、明らかに言葉でこの男性を追い詰めている。
こんなにも弱っている、もう命の灯火が消えかかっている人に対して。

「わ……しは……本当…に」

「好きだったんだよねえ? 何としてもクラース氏から奪いたくて」

徐々にではあるが、男性が息をする間隔が長くなっていた。


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