
マッチ売りの少女と死神さん
第6章 1月3日…あと刹那のその時まで
「奥さんは何にも知らなかったらしいね。 爺さんは優しくしてくれたって言ってたよ。 あの時は大勢が亡くなったからね、僕は死人同士で話してたのを小耳に挟んだだけだけど」
ホーリーが口調の速度をやや落とした。
背後にあった木の枝からバサリと雪の塊が地面に落ち、彼がそちらの方に目を向ける。
「ちなみにクラース氏は生きてるよ。 あれから新しい奥さんと再婚して……また死別したけど娘がいる」
「そう……か………………」
「昨晩はよく雪が降ったよね……助けを呼ばなかったのも、除隊させられてこんな暮らしを続けてたのは、懺悔のため、とか?」
……男性から僅かに漏れていた呼吸音が聴こえなくなった。
「どうせ地獄に落ちるってのにね。 償うのは死の後だなんてクリスチャンなら分かってるだろうに。 それなのに何十年もじっと動かないで、後悔してた人生は辛かった? それとも楽だった?」
男性に見入っていたサラがホーリーの手を握り返した。
「爺さん?」
「ホーリーさん、もうこの人は…亡くなった……みたいです」
誰もがベッドの上で逝けるわけではない。
(でも何も、こんな所で……)
一歩前に進み出たサラが痛ましそうに眉を寄せる。
髪の隙間から見える男性の目はきちんと閉じられていた。
「フン……わざわざ来たのに」
「だけど、少しだけ安心したような……お顔ですね。 この方のお名前はなんていうのですか」
「さあ? アダム・ミュラーとか何とかだっけ」
「アダムさん………今までお辛かったのですね。 どうかゆっくり休んで下さい」
その場に跪いたサラがアダムに語りかけ、胸の前で十字を切ってから静かに手を合わせる。
