
マッチ売りの少女と死神さん
第6章 1月3日…あと刹那のその時まで
「爺さんは何が一番辛かったんだろうねえ」
「もしこの人が本当にその女性を愛していたのでしたら………大事にしようとしたのに、もしも自分の手で死なせてしまったのなら、とても悲しかったのだと思います」
「そお? 僕から見るとムカつくほど羨ましい人生だけど」
彼の言い草はともかく、クラース氏が今新たに家族を持っていると知らされ、『そうか』と最期に呟いた彼の声音は安堵したようにサラには聞こえた。
「ホーリーさんはこの人を少しでも救おうと思ってここに……?」
「まさか。 僕はもう一度ここの景色が見たかったから」
「でも」
「あとは……必要があれば、クラース氏にここでの事を教えてあげるといいよ。 もしこの先、また彼が復讐とか変な気を起こしかけたらさ」
「………この先?」
「君は死なない。 そのうちに僕の姿自体が見えなくなるはずだよ」
彼の言葉にサラが驚いて立ち上がる。
相変わらず、史実を伝えるがごとくのホーリーの平静な表情と口調だった。
「そして君はまたクラース氏と約束をするだろう。 死人は普通、未来の話をしないんだよねえ」
それはホーリーの確信だった。 自分が妨害したあの夜から、サラは死から確実に遠ざかっている。
そんな影など今の彼女からはちっとも見当たらない。
先ほど自分の本当の姿を見たのはおそらく鐘の音のせいだ。 その後にまた、今の彼女の目に映っているだろう偽りの姿に変わるなんて有り得ない。
「ちなみにほら、死に際に寝床でよく言う、また思い出のどこそこへ一緒に行こうなんてのはただの願望であり約束じゃない」
