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マッチ売りの少女と死神さん

第8章 1月3日…お別れの調ベ 前編



そんなことを頭に浮かべ、サラが歩きながらはあ、と大きくため息をつく。

(思いっきりトイレのドアを閉じた時、ホーリーさんゴンって顔ぶつけてたけど、大丈夫だったかしら……?)

発言が異常にもほどがある。 縦に振りかけたサラの首が途中で止まる。

「……いいえ。 これは関係ないわ」

サラはとりあえずこの出来事は脇に置いておくことにした。

「その後よね」

それからコートのポケットに手を入れ、サラは木製の硬質な装飾を指でなぞった。 小型の華奢なナイフはホーリーからもらったもの。



****

お手洗いから戻り、ナイフを受け取ったサラは鞘を外して困惑した顔を彼に向けた。

『綺麗ですね……こんなものを何に使うんですか?』

『僕から最後のプレゼントだよお。 もう僕は要らないから』

お守りにでもしたらいい、ホーリーはベッドの壁に持たれて頭の後ろで手を組んだ。

『狩猟を主とする土地の人々は、得てしてそんなものを守りにするらしい』

椅子をベッドの脇に運んだサラがそこに腰を下ろす。

柄や鞘の部分に青や緑の彫刻が施されている、武器というより装飾品のようなものだ。
サラは自分の手の中をしげしげ眺めた。

『でもホーリーさん、ごめんなさい。 やっぱり、きっとどんな形にしろ、私には他人を傷付けるのなんて無理なような気がします』

『……そうなの? 例えばサラちゃんなんて、お父さんの愛人に嫌なことをされたり言われたのに。 憎んでないのお?』

問われたサラが眉を寄せた。
いつもお父さんの傍らにいた赤毛の女性を思い浮かべた。


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