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マッチ売りの少女と死神さん

第8章 1月3日…お別れの調ベ 前編



『いいえ。 嫌われて、居なくなればいいと思ったりもしましたけど。 そもそも、憎しみって何でしょうか? 私、あの人やお父さんのことを思うたびに悲しいとか、寂しい気持ちがどんどん強くなって……それが憎しみなのでしょうか?』

今まで暴力はおろか、他人を罵ったこともない。
それなのにホーリーに拙い質問をしたのは、サラにとって彼が唯一自分の怒りをみせた人間だったからだ。
それが憎しみとは程遠いものだとしても。

ホーリーはさして間を置かずに答えを返した。

『そんな風にもがくよりも、憎んで他人のせいにした方が楽になれたかもねえ? 憎しみって感情は、別に悪いことばかりじゃない』

『……こんな私は嘘かもしれません。 ホーリーさんは自分の中の色んな気持ちと、きちんと向き合ってる人のような気がします。 だからとても強い人だと思うんです』

それだからこそ彼は、自分の気持ちを正直に相手に伝えられる方法を身に付けている。 そうサラは思っていた。

『それは違うと思うけどねえ……ま、いいけどさあ。 これで分かったでしょお?』

片方の眉をあげたホーリーがサラの戸惑う視線を受け止めた。

『君が僕のために「それを出来ない」と言うんなら、僕も君のために何かをするのは無理だ。 だから僕の生き方は僕が決める。 至極まっとうな理屈だよねえ?』

『で、でも…!』

『あんな爺さんには同情しておいて、死神の僕には選ぶ権利は無いと? 僕にだって心ぐらいあるんだけど』

『………っ』

サラは二の句が告げなかった。


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