
マッチ売りの少女と死神さん
第8章 1月3日…お別れの調ベ 前編
(ホーリーさんは特別な存在だから)
(ホーリーさんは神様みたいだから)
どの言葉もどこか違和感があるようで。
『ああ、言っとくけど。 僕は君を抱く時には、いつもサラちゃんがその気になる薬を使ってたし、プレゼントなんかもほら。 君を油断させるため。 僕に対する感情をくれぐれも「勘違い」しちゃいけない』
(ホーリーさんに生きて欲しい)
彼のために良かれと思っているのに、なぜ自分は何も言えないんだろう?
サラは自分が正しいと信じていることをおびやかされたような気持ちになった。
『……ここらが潮時だよねえ、サラちゃん』
サラを眺めながら薄らと微笑を浮かべたホーリー。
心細くなったサラはもう一度、ホーリーが自分の手を引き寄せてくれないかと願う。
彼のふざけた態度に怒るか、もしくは彼の長い腕に包まれたなら、言葉を紡ぐ余裕も必要も失くなるような気がして、ほのかな期待を寄せた。
……けれども彼はそうしない。
『さて、ニューイヤー・ホリデーは終わり。 もう出て行ってくれる?』
彼とサラの間を隔てているベッドシーツは、まだこんなにも生々しく行為の跡を残しているというのに。
ホーリーのことをまるで初対面の見知らぬ人のように感じて、サラはそこから先に進めなかった。
椅子から腰を浮かすことさえ出来なかった。
そのうちにホーリーはサラから顔を背け、やる気がなさそうにベッドに寝転がる。
……それはサラが昔から、お父さんにされて、嫌というほどよく知っている光景。
彼、ホーリーの背中は今、話しかけられたり触れられたりすることを拒絶している。
サラはホーリーにそうされるとは今まで思ってもみなかった。
結局……そんな彼を見ていたくなく、サラは立ち上がるしかなかったし、そしたら次は部屋を出るしかなかった。
そうして、ホーリーは突然サラを遠ざけたのだった。
