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マッチ売りの少女と死神さん

第8章 1月3日…お別れの調ベ 前編


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自分はどうやらホーリーの役に立てなかったらしい。
悲しみから生まれる徒労感がサラの心を締め付けた。

(家に……帰らなくちゃ)

────養女の話、受けるんだよねえ?

ホーリーが言っていたにしろ、まずは自分の生まれ育った家に帰ることが先決だとサラは思った。

なのになぜだろう。
溶けかけて再び凍り始めた雪に、足が縫い付けられたみたいにサラの足は動きを止めた。

お父さんが心配しているだろう。
怒っているだろう。
クラースさんのことを相談しなければならない。

分かっていても足が動かない。

(元に戻っただけだわ)

ホーリーと出会うまでの自分に。


────『勘違い』しちゃいけない

サラは再び彼の言葉を思い出した。

「すっかり冷えてきた。 なあ帰ろうぜ」
「今晩はお父さんが早く帰りますからね」
「ねえねえ、帰ったら、おじいちゃんからもらったお菓子を開けていい?」

すれ違う人の声が耳をかすめる。


ほんの今朝まで、自分は彼らのように幸福だった。
そして『帰る』ことは、今の自分にはとてつもなく重荷に思える。

こんな時に決まって頭に浮かんだおばあさんやお母さんの姿がちっとも現れない。
その思い付きにサラは愕然とした。

家路に急ぐ人達の幸福を、以前のようにうらやめない上に切なくもならず、サラはただ焦げそうな胸に手をあてた。


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