
マッチ売りの少女と死神さん
第8章 1月3日…お別れの調ベ 前編
代わりに、冷たく突き放された『彼』のことを思い出したくないのに、頭で考えるよりも『彼』が自分の心を占めていく。
それはどちらかというと、ホーリーに対する反感、あるいは理にかなっていないという気持ち。
攫うかのごとくサラを奪い
何度も触れて愛の言葉をくれ
その後に自分を締め出した彼に対して。
彼の身を案じるよりも、なぜこんな事を思うんだろう?
息苦しさを覚えたサラは考えることをなるべく放棄しようとした。
「おいソフィア。 今晩は男ントコ行かなくっていいいのか?」
「フン。 まあ、娘がいたら金を運んできて家の事もしないでラクが出来るんだけどね。 邪魔者がいないからって、アイツにしつこくされんのも真っ平だしねえ」
「………」
それは聞き覚えのある声だった。
「おめえにそんだけ惚れてるってことじゃねえの。 ランスっつったか。 アッチの具合も名前通り、まんざらでもねえってか?」
サラは声がする歩道とは逆の、壁伝いに並ぶ店舗側に体の向きを変えた。
「ったく。 アンタも相変わらず下品だねえ」
二人はくぐもった笑い声をあげた。
サラの後ろを通り過ぎて、路地へと入っていく。
体をぴったりとくっつけた中年のカップル。
それを背中で聞きながらサラは唇を噛んでいた。
声が遠のき、聞こえなくなってからようやくと、我に返る。
ランスとはお父さんのファーストネームにあたる。
そしてソフィアとは………今通り過ぎたのは、間違いなくお父さんの恋人と、以前に自分が街で見かけた男性だった。
