
マッチ売りの少女と死神さん
第8章 1月3日…お別れの調ベ 前編
────あれは彼女の弟だよ
以前は離れたところで目にしたせいか気付かなかった。
加えて、今のサラには男女独特の距離感というものが理解出来るようになっていた。
(ホーリーさんはなぜあんな嘘を?……弟なんかじゃないわ)
「………う」
気持ちが悪くなり、もたれ掛かったサラは壁に体重を預ける。
彼らを汚らしい、と感じた。
昔、娘婿として家族といた頃のお父さんは、もっと大人しい人だったように思う。
正しく優しかったおばあさんが皆を導いてくれていた。
………今まで自分はお父さんの関心を引くために心を砕いていた。 思えば、なぜそんなことをしていたのだろうと自分を滑稽にさえ感じる。
自分はただの役立たずだ。
『もしも』こうだったらと、いくつかの可能性がサラの心を横切った。
もしも、自分が家を助けようとしなかったら、あの人はお父さんに近付かなかった?
もしも、ホーリーが自分に会いに来なければ彼は平穏に冥界にいた?
きっと何かを間違ったのだろう。
けれども教会に行って懺悔をしようにも、どんな罪に対して謝罪すればいいのか分からない。
ホーリーとのことを罪というのなら、それは彼をも断罪するような気がした。
サラはとうとうお父さんのことも考えたくなくなった。
まるでぐちゃぐちゃの落書きがどんどん増えて、自分の存在が黒く塗りつぶされていくようで震えが止まらない。
家に戻れなくなったサラは寒空の下で途方に暮れる。
────明日の昼までには家におりますから
ふと、クラース氏の言葉を思い出した。
サラは足を意識的に動かし、それを引きずるように彼の家へと向かった。
乾いた冷気が頬を刺す。
それまで唇を噛み締めていたのに気付いて、やっと唇から歯を離す。
するとサラの口に血の味が広がった。
