
マッチ売りの少女と死神さん
第8章 1月3日…お別れの調ベ 前編
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「サラさん、どうしたんですか」クラース氏を訪ねて、第一声に温かい挨拶を耳にした瞬間、サラはようやく小さく安堵の息を吐いた。
「顔色が悪い。 とりあえず中へ」
氏は純粋にサラを心配してくれている。
彼の表情にそれ以外の思惑は浮かんでいない。
「出来れば明日までに、会えればと思……あ、あいたた!」
突然顔を歪めた氏が腰を曲げて脇腹の辺りを押さえた。
「ど、どうかしましたか!?」
「いやね、この雪で滑って転んで、情けない。 私は昔から結構抜けててね、ローラにも罵……𠮟られて」
苦笑いで家に引き入れてくれる氏の後に続く。
「そろそろ地面が凍ってきてますから。 大丈夫ですか?」
氏をねぎらった後でサラは考える。
いきおい訪問したとはいえ、日中にした養女の話をしにきたわけではない旨を氏に謝罪した。
「なに、気にしないでいいですよ。 急ぎませんと言いましたし。 それよりも今から、夕食の支度をするところですが良ければご一緒しませんか。 食卓は賑やかな方がいい」
ローラは今、お使いに行っているとのことだった。
キッチンに足を踏み入れると既にストーブからは肉の焼ける香ばしい香りが漂っていた。
かけてあるケトルからは蒸気が立ち昇り、シュンシュンと音を立てている。
室温のせいばかりではなく、ここの穏やかな家庭の雰囲気がサラの心身を暖めてくれた。
