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マッチ売りの少女と死神さん

第8章 1月3日…お別れの調ベ 前編


***
「サラさん、どうしたんですか」クラース氏を訪ねて、第一声に温かい挨拶を耳にした瞬間、サラはようやく小さく安堵の息を吐いた。

「顔色が悪い。 とりあえず中へ」

氏は純粋にサラを心配してくれている。
彼の表情にそれ以外の思惑は浮かんでいない。

「出来れば明日までに、会えればと思……あ、あいたた!」

突然顔を歪めた氏が腰を曲げて脇腹の辺りを押さえた。

「ど、どうかしましたか!?」

「いやね、この雪で滑って転んで、情けない。 私は昔から結構抜けててね、ローラにも罵……𠮟られて」

苦笑いで家に引き入れてくれる氏の後に続く。

「そろそろ地面が凍ってきてますから。 大丈夫ですか?」

氏をねぎらった後でサラは考える。
いきおい訪問したとはいえ、日中にした養女の話をしにきたわけではない旨を氏に謝罪した。

「なに、気にしないでいいですよ。 急ぎませんと言いましたし。 それよりも今から、夕食の支度をするところですが良ければご一緒しませんか。 食卓は賑やかな方がいい」

ローラは今、お使いに行っているとのことだった。

キッチンに足を踏み入れると既にストーブからは肉の焼ける香ばしい香りが漂っていた。
かけてあるケトルからは蒸気が立ち昇り、シュンシュンと音を立てている。

室温のせいばかりではなく、ここの穏やかな家庭の雰囲気がサラの心身を暖めてくれた。


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