
マッチ売りの少女と死神さん
第8章 1月3日…お別れの調ベ 前編
クラース氏がお茶を入れるためにダイニングテーブルにカップを並べた。
「また私が仕事で家空けると手伝いが来ますがね。 決まってローラのことを気味悪がりますし……せめて私がいる間は、家族だけで過ごしたくって」
この家の養女になるという話をどこか他人事のように思っていたサラだった。
けれども、もしかすると目の前のこの人は、こんな風に、自分のことも思ってくれるのだろうか……?
つい、そんな淡い期待を持ちそうになる。
「そうだなあ、メインはもう焼けますし。 ローラがじきにパンを買ってきてくれるだろうから、あとはスープでも」
「クラースさんはどうか休んでいてください。 ありあわせで良ければ作りますから。 お野菜を使ってもいいですか?」
「……ありがとう」
クラース氏の傍に椅子を運んだサラが代わりに台所に立ち始めた。
そんなサラを眺め、氏がどこか感じ入った表情で彼女に勧められた椅子に腰を下ろした。
肉があるのなら、豆ではなく葉物や根菜のスープを作ろうと、引き戸になっている貯蔵庫を物色する。
「貴女を養女にと望みましたが、それは私やローラのためでもあります。 あの子は痩せているでしょう? あれは……少しばかり気難しい所があって、手伝いの者が作ったものを食べたがらない。 サラさんにその役目をさせようとは思ってませんが、私が不在の時はローラを見てくれるだろうと」
ぽつりぽつりと話すクラース氏に、手を動かしていたサラは口を挟まずに黙っていた。
「貴女のおばあさんは決して私からの礼を受け取ろうとしなかった。 ですが私は思うのです。 そのうち女性も、選挙権を持つ時代がきっと来る。 私はサラさんにもローラにも、学校に通わせたいと思っています。 子供が家事に追われたり、街頭で物売りをするなんてあってはならない。 それは天国にいるおばあさんも同じ考えだと信じています」
「……でも、私はもう15です。 子供という歳ではないですし。 ローラちゃんは素直な良い子ですよ。 それほど好き嫌いが激しいタイプとも思えませんけど」
その時、手に持っていた小さなジャガイモを取り落としたサラが慌ててテーブルの下に潜る。
それと同時にキッチンに走ってくる足音と、けたたましい高い声が室内に響いた。
