
マッチ売りの少女と死神さん
第8章 1月3日…お別れの調ベ 前編
「ローラは人と話すのに慣れてないんですよ……あの、どうも……少しばかり内弁慶ですみません」
(これも似た言葉を聞いたことがあるわ)
そう思い付き、サラはもう少し以前の記憶を頭から取り出そうとしてみる。
────僕は会話に慣れていないから、どうしても反応が冷たかったり鈍いんだよ
はて、とサラは首を捻った。
サラはホーリーやローラのような率直な性格を好ましいと常々考えていたからだ。
「ええと、私なんかはローラちゃんみたいに、はっきりと物を言える子はすごく羨ましいです」
素直に言ったサラに、ローラはほわっとした表情を返し、クラース氏は微妙に眉間にしわを寄せた。
「世間とズレているのですよ。 小さい頃から多くの人と関わっていたサラさんとは、心遣いや対話能力が違います」
「そ、そんなことは全然ないですよ!」
自分の目の前でブンブン手のひらを振る。
我ながら、商売下手であると自身を分析しているサラである。
実際、サラは値切られたらいつも押しに負けてしまうし、強引な客引きも苦手だった。
恥ずかしそうに下を向く、ローラの様子はやはりとても可愛らしくてサラの頬が緩む。
むしろ自分にも、クラース氏に対するように接して欲しいとさえ思う。
「……気にしなくていい?」
サラを見るローラのハシバミ色の目がキラキラと輝いている。
「だってそんなの、ローラちゃんが疲れちゃうでしょう?」
ローラは小さく頷いた。
「やっぱりサラお姉ちゃんは私の思った通りの人だわ」
おもむろにテーブルの下で足を組んだローラが、歳に似合わず物憂げな瞳を伏せがちに呟く。
「確かに、子供だからって子供らしく振る舞うのも疲れるものねえ」
「え?」
突然の、ローラの口調や佇まいの変わりよう。
サラは思わずぽかんと口を開けた。
