
マッチ売りの少女と死神さん
第8章 1月3日…お別れの調ベ 前編
「お姉ちゃんは知らないでしょう。 大人びた子供の形をした物って、大したことない大人にほど嫌われるのものよ。 本来のあたしは嘘をつかないし」
「ローラ、それが子供だというんだ。 それは嘘じゃなくて人間関係を良くするための知恵なのだから」
「だから大したことないって言ってるわ。 心にやましい所がなければ、嘘や虚偽なんて必要ないもの。 その最たるものが、いわゆる先生や神父という生き物ね」
「し、神父様?」
神父や司祭とは、他の職業とは一線を画す。
教師と名のつくものは大概は教会に属し、勉学を教えたり先生と呼ばれるものも多い。
政治にも深く関わるが、生涯独身を貫く、俗世と隔離された尊い存在なのである。
「彼らは、知らないことを知らないと言えない嘘に囚われてる。 そこに対人に関する円滑さなんて、謙虚な思い遣りは、決して存在しないのよ。 それがあたしが学校や級友に嫌われて、パパには嫌われない理由だと思ってるわ」
「…………」
そんな偉い人たちのことを、悪びれもせず同列に語る彼女にサラは言葉もなかった。
頬杖をつき、ため息混じりに世をはかなむローラにクラース氏がハラハラと泣き出しそうな風情で声をかける。
「また訳の分からないことを。 そこは私の愛娘への愛情とは思ってくれないのかい?」
「ふ……親子だからって、愛し愛されて当然だなんて、甘いことをあたしは考えちゃいないわ……」
「ローラ、そんな」
(……なんだかローラちゃんって、すごいわ)
ホーリーいわく、彼女は色々な加護を持つ人間だと。
きっとローラは神に選ばれし子なのだ。
親子二人の会話(というか、主にローラが淡々と話しているだけだが)に感心しつつ、サラはとりあえず料理の続きに取り掛かることにした。
