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マッチ売りの少女と死神さん

第8章 1月3日…お別れの調ベ 前編



「これは……美味しいですな」

スープをひと匙口に運んだクラース氏が舌鼓を打つ。

「本当。 お野菜が口の中でホロホロ溶けて、優しい味がするわ」

「ありがとうございます。 でも、クラースさんにはとても……メインのお肉なんて、とてもジューシーで。 昨晩といい、こんな豪華な食事をいただけるなんて夢みたいです」

水鳥のようだが、外側はパリッと焼けて香ばしく、たっぷりの香草をお腹に詰めた肉料理は食欲をそそる。
サラがお皿を空にする前に氏がどうぞどうぞと盛り付けてくれるので、今晩もつい食べすぎてしまう。


「ところでサラさん。 宿を取っていたようだが、お家の方は多少落ち着きましたか」

「パパ」

「?」

片手を口にあてるクラース氏と、氏を睨むローラを交互に見比べたサラだった。

「いや、あの。 差し出がましくてすみません。 これはローラから聞いたのですが」

「………分かるわ。 あたしだって、あんな所にいるのはとてもいたたまれないもの。 あのお兄ちゃんも得体がしれないけど、お家よりはまだずっとマシよね?」

「何の話ですか?」

「何でも大晦日に、着の身着のまま家を追い出されたのだとか。 私も昨日知ったことですが、お父上の…ソフィアという女性。 どうもこの界隈でも評判は良くないようで」

「お兄ちゃんが行く当てのなかったサラお姉ちゃんを、助けてくれたのよね。 あの人、本来はとても力のある人だわ。 おそらく天使様以上の」

(助けて……?)

ローラの言葉に違和感を持ったサラは腕を組んだ。

「それをホーリーさんが言っていた?」

「そうよ。 昨晩迎えに来た時も、さっきパン屋さんの帰りに会った時も、そんな事情があるから、どうかお姉ちゃんをよろしくって」

少し……いや、大分虚飾が混ざっているようだが、当たらずとも遠からずだ。
氏が唐突に宿に訪ねてきたのはそんな事情だったらしい。


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