
マッチ売りの少女と死神さん
第8章 1月3日…お別れの調ベ 前編
「ローラちゃんは見上げるほどの大きな男の人たちに向かって、私を庇ってくれようとしたわ。 私、ローラちゃんってなんて優しくて頭の良い子だと」
「やめて」
続きを口に出そうとして、思いがけず強い口調で遮られたサラは口を閉じた。
ローラは唇をへの字に曲げたままサラの顔を見ようとしない。
「あたしを決め付けるのはやめて欲しいの。 そんな風に言われたら、きっとあたしは、お姉ちゃんにいつも優しくしなきゃだめな気分になってしまうわ」
「私はそんなつもりじゃ…」
「誰だって好きな人には嫌われたくないもの。 こうなったら、サラお姉ちゃんに対してのあたしは、癇癪持ちで、生意気な子供でいたいの。 お父さんに対する自分って、そうだもの ……そんなあたしでも、お姉ちゃんのために何かお返しをしたいだけなのよ」
「ローラちゃん」
刺々しく話すローラだったが、サラの心に温かい何かが染み渡る。
コンコン────────……
と、昨日のように玄関口から小さなノックの音が聴こえた。
それにローラが立ち上がる。
「あっ、パパ。 もしかして、新しい手伝いの人、今晩から頼んだの?」
「ああ、うん………いや。 少しだけ家の説明をしておこうかと思って」
「今はダメよ! パパも腰痛めてるし、何ならあたしから説明するから、明日ね!」
氏が答えを返す前にローラがキッチンを飛び出していく。
取り残されたクラース氏はサラと顔を見合わせて軽く笑った。
「あれでも私はローラを愛していますがねえ」
サラは五度コクコクコクコクと頷きを返した。
お嬢さんらしく振る舞っていたローラよりも、今の彼女の方が、サラは好感が持てた。
(分かります! だって、とっても可愛いもの!)
口が悪かろうと、本当の彼女は嘘をつかない。
それもサラが知っている誰かに似ていた。
それから氏が苦笑して、ティーカップの取っ手に手を伸ばしたが、それが冷めているのに気付いたサラが席を立った。
「待ってください。 すぐにお湯を入れ替えますから」
