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マッチ売りの少女と死神さん

第9章 1月3日…お別れの調ベ 後編



────なんていうか……憧れてみただけだよ。

(死ぬことに?)

不審に思うも、彼が思い直してくれて本当によかった。 サラはほうっと胸をなでおろした。

安心した途端、また涙が出てくる。

────うーん、虐めるつもりもないのに泣かれるって、苦手なんだよねえ。

彼は悲しみに暮れる女性を慰める方法を知らなかったにも関わらず、彼女がなぜ泣くのかは理解していた。
そしてそれを鎮める方法も。

────それなら大人のことをする?
そのまま目を閉じてなよ。

サラの涙を吸った薄い皮膚。
それは湿りを含んで、濡れた目の下からこめかみへと流れていく。

鼻先が彼女の髪の隙間を掻き分ける。
サラの耳の端を、彼の上下の唇が捕らえた。
耳にかかる息遣い。
甘く噛まれてサラの体がぶるりと震えた。

ぴったり密着した体の感触。
心身から余計な力が抜けていき、彼女の心に欠けていたものが満たされていく。

きつく肩を抱かれ小さな悲鳴があがりそうになる。
それは歓喜に震え漏らす音。
こんな場所にも関わらず、サラはもっと触れて欲しいと願う。
閉ざされた視界の中でいかにして二人の間の空気を凝縮させられるかと、彼女はそのことに注力していた。
すると不思議なことに、自分の視覚以外の全てがホーリーの動きに沿う。

サラが指を伸ばすと腕の端っこにしろ胸の襟元にしろ、どこかしらの場所を提供してくれるし、彼の骨格を受け入れるために彼女の体はしなやかに形を変え、肌を滑る舌や指は待ちかねたように肌を粟立たせて、それに答えを返す。

ホーリーのこんなにも存在を感じさせてくれる、ホーリーの優しさに胸が熱くなった。

低過ぎないかすれたホーリーの囁き声は、サラをますます過敏にした。


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