
マッチ売りの少女と死神さん
第9章 1月3日…お別れの調ベ 後編
────ふふ。 確かに死神になった頃の僕はもうボロボロだったかなあ。
「あ、だから……体に傷があるんですね」
────うん、まあ……痛みは僕にとって親友みたいなものかねえ。 自分でつけたりね。
「自分で……? なん、で…?」
サラが訊いた後に長い間が空いた。
────僕は……
ポツポツと話すホーリーにサラは耳を傾けた。
それは彼の世界の話。
神が創造した別の生き物の物語。
そしてサラはようやく『痛み』というものを理解した。
お父さんに叩かれた翌朝に、奇妙な高揚がサラを包んだ。
物理的な苦痛とは彼女にとって赦しともいえた。
『嬉しい?』初めにそう問うたホーリーは、全て知っていたんだろう。
元の場所に帰って欲しいと言った自分を、サラは再び激しく恥じた。
誰も知らない彼の犠牲の元にこの世は成り立っていたという事実。
サラはとうとう押し黙ってしまった。
────今さらそんな暗い顔する必要は無いかなあ。 僕ははじめ、君を地獄に連れていく予定だったんだから。
話が終わり、ひと息ついたホーリーが再びぼんやりと口を開く。
「地獄……」
────死んで天国にいくと、君は別の人間に生まれ変わるからねえ。
僕はあと何百年も死ねないのに、サラちゃんを永遠に失う、そんな日が来るなんて耐えられなかった。
ホーリーはそうしなかった。
────ああ、それは置いておいて、さっきのローラって子の話。
こっちに理想を押し付けて拗ねるような相手って、つまるところ、『失望されるのが怖い』んだよね。 大好きだって言われてるのとおんなじ。
せいぜい甘やかしてあげるといい。
もちろんローラを嫌っていないのでサラは頷いた。
「お父さんの恋人の……男の人を弟だって言ったのも、私のことを思ってでしょう?」
────ん……知ってるの? 単に僕が嫌だった。
サラちゃんが知らなくてもいいことだと判断しただけ。
まあ、拾い上げた命をそのままにして帰る気はないよ。 ここは君にとっていい環境のはずだ。
