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マッチ売りの少女と死神さん

第9章 1月3日…お別れの調ベ 後編



「私なんかのために……そんなに? なぜそんなにしてくれるんですか?」



────なぜ? さっき話した通り、実際に人と関わらなければ決して生まれない感情のことだよ。
ここで生きている君が、僕にそれを聞くの?


サラは何も答えなかった。
正しくは答えられなかった。

室内に違う空気が混ざり始めた気がした。
会話を途切れさせたくなく何か言いかけるが、気の利いたことなど言えなかった。


────サラちゃんは僕に名前をつけてくれた。
僕のために泣いてくれた。 僕に触れてくれた。
そんなものを君が返してくれるなんて、僕は夢にも思わなかったんだ。


そしてホーリーはここにきて初めて自分の心をサラに話す。
なぜそれが『今』なんだろう?
謙虚とも弱音ともいえる、彼の本心を、突然告白されてもサラはどうすればいいのか分からない。

終わりの予感はすぐ傍まで近付いていた。
サラの中ではちっとも終わってないというのに。



────もう僕の話はいいかな?
ああ、こんなにつまんない話をたくさんしたのは生まれて初めてだよ。



あまり時間が無いから。 ごめんね。 と、ホーリーが立ち上がる気配がした。


「あ」



────そろそろ、帰るね。



「ほ、本当に、ありがとう、ごさい……ました」

やっとの思いで自分が絞り出した言葉。
それはなんて間抜けなんだろう。 サラは呆けた表情のままホーリーに向かって深くおじぎをしていた。
でも顔を上げたら、また泣いているのを知られてしまう。
サラはそれだけはしたくなかった。



────………ありがとう



最後は消え入るような声で、ホーリーの気配がその場から無くなった。

『い………い…かない……で……』

そのあとに、唇だけを動かして零したサラの呟きは声にならずに済んだ。

少女の初めての恋だった。


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