
マッチ売りの少女と死神さん
第9章 1月3日…お別れの調ベ 後編
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一人になり、気持ちを落ち着けてからリビングに戻ったサラは、クラース氏とローラの二人に笑顔で声をかけた。
「ご心配をお掛けてしてすみません! キッチンもそのままにしてしまって。 待っててくださいね、今お茶をいれますから」
ソファで膝を抱えていたローラは、少しばかり気まずそうにサラを横目で見た。
「死神の気配が失くなったから、気になって降りてきたのよ。 彼は帰ったのね?」
……ゴッ!
「サラさん! 大丈夫ですか」
しこたまテーブルの脚にすねをぶつけたサラにクラース氏が尋ねた。
「大丈夫です。 はい、無事に戻られたみたいです。 お茶葉はこちらですね!」
「あたし、食器を出すわ」
紅茶葉の質で大体の家の格が分かるという。
サラが瓶のふたを開けた途端、ふわっと周囲に広がる爽やかな香り。
驚いているサラにクラース氏が教えてくれた。
「変わった香りでしょう? それは中国茶といって、寝る前や子供には体に良いとされます」
(中国……? ホーリーさんなら知っていそう)
ごく自然に彼のことが思い出され、サラは頭の中であたふたした。
まるで彼女の心を読んだかのようにクラース氏が遠い目をサラの背後に向ける。
「しかしあれは、不思議な青年でしたなあ……いや、声は青年なんですが、なんというか、私よりもずうっと歳上のような」
……ガチャン
「お姉ちゃん、カップがひっくり返」
ドボボ……
「入ってない! 待って、お湯がポットに入ってないわ!」
湯気を上げるテーブルをぼんやりと見ていたサラが、ハッと我に返る。
