
マッチ売りの少女と死神さん
第9章 1月3日…お別れの調ベ 後編
「あっ! ご、ごめんなさい!! 今お湯を……きゃあああっ!?」
今度はガラカラガシャンと派手な音を立て、足を滑らせ洗い場に頭を突っ込んだサラだった。
しまいに彼女の背後でローラがオロオロし始めてしまう。
「さ、サラお姉ちゃん……? 今度は一体なにごとなの」
「……ええと……サラさん。 今晩はここに泊まっていってください。 是非に」
真面目な表情で氏にも言われ、顔を真っ赤にしたサラは大急ぎで散らかした残骸を片付け始めた。
「い、いいえ、私は一度家に帰ります」
「何があったかはあえて聞きませんが………雪の夜道は危険です。 考えていましたが、まずはこうしましょう」
クラース氏はまだ痛むのか腰に手をあて、再び雪がチラつき始めた窓辺に視線を移した。
「私が今晩のうちにご実家に手紙を出しておきます。 筋書きはこうです。 サラさんは大晦日の晩、私の馬車で怪我をしました。 それを知人と知った私が、今までサラさんを療養させていたと。 サラさんもお父上に対して、とりあえずの不在の言い訳がつくと思うのです」
「ハア? パパ、追い出したのは向こうじゃないの。 なんでこっちが、そんなまどろっこしいことをする必要があるのよ」
「お父上がしたのは、衝動的な行ないかもしれないと私は思うんだよ。 娘を想う親の心とは、そんなに簡単なものじゃないはずなんだ」
………真実はさておき、サラが家に戻りづらかったのは確かだ。
サラはもう何度目かの氏の心遣いに感謝した。
「ありがとうございます。 何からなにまでっ」
ゴンッ!
頭を下げた時にサラがテーブルの角で顔面を打ち、痛みにしゃがみ込む。
「………」
そんな彼女を見ていたクラース氏とローラは目を合わせ、首を横に振っては困惑していた。
