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マッチ売りの少女と死神さん

第11章 1月4日…愛する君へ捧ぐ



サラの実家はすぐに分かった。
元々は貧しくなかったのだろうが、壁の塗装は剥がれ、門の石垣も崩れたみずぼらしい住まいだった。
割れたガラス窓には急ごしらえの木の板が立て掛けてある。

家の周りには近所の住人だろうか。
人だかりが出来、みな一様に戸惑い、暗い面持ちをしていた。

「あの……何かありましたか? 私はここの娘さんの知人なのですが」

クラース氏は人に尋ねたが、彼らは揃って口ごもるばかり。
代わりに同情的な目を向けられ、氏は当惑した。

「お、お姉ちゃんがいないわ!!」

突然、我先にと人の合間をぬい、ローラが走って家の中に飛び込んでいった。
玄関先で娘の甲高い悲鳴を聞き、追いかけた氏が目にしたものは、まさにこの世の終わりともいえる、悲惨な光景だった。


ダイニングでうつ伏せになったサラは血溜まりの床の上に倒れている。
椅子に座り、ガタガタと震えている中年の女性は確か、探偵に調べてもらったソフィアという者と容貌が似ていた。

「ア……アタシじゃない。 アタシじゃ」

繰り返し、そんなことをブツブツ呟いている。
サラの父親は呆然として彼女の傍らに座り込んでいた。
この家には一人娘であるサラのための物が全く無い。
それに、家族の写真はおろか、暖炉には焚べる薪もなく、荒れた室内にはいくつもの酒瓶が床に転がっていた。

「さ、サラ……さん…………」

誰もサラに駆け寄ろうとしない、その理由は明らかだった。


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