
マッチ売りの少女と死神さん
第3章 1月1日…死神さんに注がれています
今まで同い年の子が学校に通ったり家族で過ごしている時に、マッチや野菜を売り歩きながら────サラはもう終わりになればいい、消えてしまいたいと何度思ったことだろう。
そんな彼女にとってさえ、概念に過ぎなかった『死』というものが、言葉で伝えられると、途端に現実味をおびてくる。
サラは硬い表情で押し黙った。
「でもさあ。 サラちゃんの場合は近いうち、というか」
目を前方の空に泳がせ、ホーリーが何かを言いかけた。
自分の死期を詳しく知らさられる心構えまでは出来ていない。
少女は慌てて彼の話をさえぎった。
「…い…い、いえっ。 それはいいんです! ある程度の、心の準備が出来れば。 あっ、死神さん、というか、ホーリーさんのお仕事って何ですか?」
「僕の…仕事?」
ホーリーがサラと目を合わせた。
「仕事って言われると変だなあ。 サラちゃんだって人間が仕事じゃないんだろうし……仕事っぽい何かをしてるかってなら、うーんとさあ、例えばほら、あれ。 道の真ん中に立ってる人。 見えるかなあ?」
彼がガラス窓に向かって指をさした。
「道……というと。 あそこで馬車の誘導をしているおじさん?」
「そうそう。 僕はあんな風に、交通整理する係さあ。 死んでしまった人の魂を冥界の入り口に連れていくんだ」
「連れていかないとどうなるんですか?」
「世界が迷子の魂だらけになっちゃうねえ。 たとえば、うーん。 魂が生まれ変わることが出来ないから、人が新しく生まれなくなるよお」
いつもサラは教会で、人間が死んで肉体と魂が切り離されたあとに、どうやって魂が天に還るのかと不思議に思っていた。
まさかその作業に、目の前のこの人が関わっていたとは。 サラが彼の話に熱心に耳を傾ける。
