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マッチ売りの少女と死神さん

第3章 1月1日…死神さんに注がれています


もう一度外に目を向ける。

「………あれ?」

数人の大人が集まっている様子が見て取れた。
目を凝らすと、どうやらサラよりも小さな女の子が、大人に小突かれているようだ。

「っ…大変」

ひと言呟いたサラが席を立つ。
その際にお店の人が声をかけてきた。

「ああ、泊まりの人だね。 席は取っておきます?」

「ありがとうございますっ、すぐ戻りますので、お願いします!」

サラはドアを開けて外へと飛び出していった。

騒ぎを目に留めては人々が通り過ぎて行く。
浮かれたムードの街中では、厄介事は知らん振りされるのが常だ。
通りの向こうにいたのは、サラよりも痩せて、寒々しい格好をした女の子だった。
………その様子はまるで昔、家族をなくしたばかりの自分のようだとサラは思った。
数人の、中年の男性が彼女を取り囲んでいる。

「あ? なんだ、この女」

彼らを通り過ぎ「大丈夫?」と声をかけたサラが、女の子の前にしゃがむ。
よほど心細かったのか。

「ごめんなさい…お腹が空いていて、私…」

女の子はほっとするあまりに泣きそうな顔をした。

「口出しは無用だぜ。 その生意気なガキは正月っぱらから、ダチんとこのパンを盗んだんだ」

サラは前に進み出た中年の男性を見上げた。

分厚いシャツにくたびれたねずみ色のコート。
この辺りでよく見かける、職人のような身なりをしている。
残りの男性らも似たような雰囲気だった。
立つと足がすくんでしまいそうで、サラはそのまま口を開いた。

「お願いします。 この子を…許してあげてください。 ま、まだ小さいし……パンなら…少しは、持ってこれます」

サラは今まで居た食堂を指差して言った。
部屋の狭さに似合わず、この辺りでは、比較的大きな店のようだった。

「む、そうか? まあ、そんなら……」


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