
マッチ売りの少女と死神さん
第3章 1月1日…死神さんに注がれています
「ちょっと待って、ねえ? 今のは聞き捨てならないなあ」
それに割り込んで来たのはホーリーの声だった。
「あ? んだおめえ、イイトコで」
「今、サラちゃんのことをなんて言ったの?」
「ハア? おい、ふざけんのも…ツウっ!」
後ろで何が起こっているのか。
サラからは会話しか聞こえない。
「お、おい。 何だよ」
「なんだアレ…誰も居ないのに、トーマスの腕が不自然に曲がって……?」
ただ彼女の前にいる男性らは、何やら緊張した面持ちで背後のトーマス(とホーリー)を見ているようだった。
「聞いてるんだよお?」
「なあっ……お、おめえ…!?」
トーマスの男性の声が固く上擦っている。
(一体何をしているの?)
「ほら早く? 折るよ。 お望みなら切ってもいいけど」
「あ……ああっ待ってくれ。 あ、アバズレ……?」
「違う、そのあと」
「え、えっと…ひ、貧相?」
直後、ホーリーが大きく長く息を吐いたのが分かった。
「あのさあ………この丸くて形のいい、すべすべのお尻のなにが貧相なのか、僕にはサッパリ分からない。 思わず舐めたり食べてしまいたくなるよね? まあ……いきなり鷲掴みにしたりとか、繊細さのかけらもない君には分からないのかな……で、次は?」
口を挟む隙がない。
いつものしまりのない話し方とは違い、サラでも聞いたことのないホーリーの饒舌さである。
トーマスも呆気に取られているようだ。
「へえ……へ?」
「鈍いねえ。 サラちゃんの顔についてだよ。 なんて言ったっけ? ほら早く。 腕が使い物にならなくなるよ」
「いデデデえっ!! か…可愛いって、おりゃあ褒めただろ!?」
「言葉は正しく使うべきだ。あんまり見掛けない可愛さだと君は言った、が。 それも間違いだ」
「………」
しんと静まり返っている厨房内でホーリーの淡々とした声だけが響いていた。
サラは思っていた。
ホーリーが自分を助けてくれているのだろうか?
しかし何かが違う、と。
