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マッチ売りの少女と死神さん

第4章 1月1日…それはかわいい君のせい



この世界に来てからというもの、ホーリーは調子が悪かった。

冥界でのホーリーは、いうなれば孤独な王だった。
同じ世界の端っこまで移動出来、その辺の岩を移動させて部屋を広げ、わずかな風の音や香りを感じることができた。
それらはサラの言う奇跡というより、ホーリーから言わせればただの日常に過ぎない。
ところが人の世界での彼は思うようにいかなかった。

万物にすまういわゆる、精霊という存在がある。
おもに自然物に取り付く、精神体といわれるものである。
今朝、宿を出た際、彼は偶然それらに出会って理解した。
ホーリーを見て悲鳴をあげる者もいれば、嘲りの言葉を残して去っていく者。

ここの住人でないホーリーは『異端』として、あらゆるものから拒絶されているということに。
おそらく不調はそれが原因なのだろう。


「……あれ? いつの間に通り過ぎちゃったな」

少しばかり遠回りをして帰るつもりが、宿のある街から離れてしまった。
そこでホーリーは並木道の途中で足を止めた。

行くはずだった道に目を向けてみる。
葉が落ち切って黒く細い枝が密集し、見事に整った巨大な逆三角形となり、道の両側に並んでいる。
遥か向こうには薄い水色の寒空が輝いていた。

豪壮でありながらも繊細な風景だ。

数日前に初めてここに来た時のことを、ホーリーは脳裏に思い浮かべていた。

あの時はちょうど、この場所に雪が降っていた。
冥界にはない、純白の花々は空からのギフトに違いないと感じた。
ホーリーは何時間もその場に突っ立っていた。
そして息を飲んで雪の花に見惚れていた。


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