
マッチ売りの少女と死神さん
第4章 1月1日…それはかわいい君のせい
「………」
まだ湿っているベンチを見付けたホーリーはそこに浅く腰を下ろした。
……日を重ねるごとに体が重くなる。
そんなわけで今のホーリーは、小さなものを作り出したり、人より少しばかり力がある、幽霊のような存在に過ぎない。
健康な人間からはホーリーの姿は見えない。
この景色と同じく人の生というもの───そこから真逆に存在するホーリーにとって、それは余りにも眩しすぎた。
「………そこの」
そんなことを考えていると、老人のしわがれた声が彼の耳に入ってきた。
「………?」
「もそっと後ろに避けてくれないか。 せっかくの絶景が見えない」
先ほどから自分の隣のベンチにいたらしい。
ホーリーからは死角となって分からなかった。
そこには小さな老人が横たわっていた。
今から冷え込むこんな時間から、薄いぼろのみをまとっているし荷物もない。
浮浪者かなにかだろう。 ホーリーは思った。
「爺さんが起きればいいんだよ。 寝転がってるのはそっちの勝手でしょお」
「ゴホッゴホッ……お前はもっと年寄りを敬わんかい」
濁った咳の音だ。
ホーリーは彼の死因を探ろうと注意深く彼を見た。
呼吸が不規則で胸の辺りに影がある。
「ふう……むしろ僕を労わってほしいねえ。 結核かなにか? 僕はもうくたばるだけの爺さんと違って、やることがあるんだ」
老人は寝転がったまま、愉快そうに胸を揺らして笑った。
「何い? この罰当たりめ……フハハッ、あイテテ…そんなに若くて健康に恵まれてるなら、なんだって出来るだろう?」
「バカバカしい。 もしもあんたが昔、なんでも出来たんなら、どうして今、こんな所で独りで寒さに震えてるのさ」
ホーリーは相手の言葉に鼻白んだ。
「……お前は友人や恋人がいないだろう」
「フン」
彼の嫌味を無視した。
