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マッチ売りの少女と死神さん

第2章 12月31日…死神さんに穢されました


(マッチが売れなかったら、またお父さんに叩かれるわ…)

サラが唇を噛みしめて通りを渡ろうとした、そのときだった。
向こうから一台の馬車がものすごい勢いで走ってくる。

「ああっ!」

サラは雪道に倒れ込み、危機一髪、馬車を避けた。

「気をつけろっ!! ひかれたって知らねえぞっ」

御者はちっともスピードを落とさずに少女を怒鳴りつけながら去って行く。
サラが避けた拍子に、靴が両方とも脱げてしまっていたことに気が付いたが、マッチの入ったかごも傍に無かった。
必死になって探していると、最近聞き慣れた声が耳に届いたのでサラは眉を寄せた。

『マッチなんて売ってないでさあ、オレらとイイコトしようぜ』

こんな商売をしていると、そんな風に少女が見知らぬ男性に話しかけられることはままある。
今までは『い、いいえ、結構です』とたどたどしく断り、その場からすぐに離れるか、運が良ければ、親切な人が助けてくれ、何とか事なきを終えてきた。

しかし。

「ねえねえ。 僕と悪いことしようよお」

数日前から彼女がどこにいても、どこからともなく現れ、こんなことを言ってくる青年に、サラは戸惑っていた。
彼は変わった外見をしていた。
一見身なりはいいが、櫛を通してなそうなボサボサの頭といい。

「あ、あなた何なんですか…あっ、私の靴!」

目の下に隈でもありそうな、不健康そうな顔をしたその青年は、ニヤニヤと気味悪い笑顔を浮かべながら、サラが脱げた靴を手に持っていた。

「靴を返してください」

サラが裸足で青年の元に駆け寄ってお願いした。

彼女の話を聞いているのかいないのか。
青年は何も答えを返さずに、少女が届かない、高い位置に靴を掲げてサラを見下ろしている。

「あの、それ…」

サラは地面の冷たさに足をすり合わせた。
薄く雪の積もった歩道は凍えそうだったので、サラがか細い声で必死に訴えるも。

「ふふふ……っ」

青年は舐めるようにサラを見て、ますますニタアと笑うだけ。
それは意地悪というよりも、なにかを堪えているような、堪えすぎていっそ苦しいとでもいうような……やはり不気味としかいえない表情だった。


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