
マッチ売りの少女と死神さん
第2章 12月31日…死神さんに穢されました
「キミィ、いい加減にしたまえ。 その子が困っている」
通りがかりの体格の良さげな紳士がサラたちの元へ近寄ってきた。
非難めいた様子で青年を咎めているようだった。
サラは紳士が助けてくれるのかと思い、ほっとして感謝と安堵の目を紳士に向ける。
それにも関わらず、青年は紳士を丸っきり無視をした。
「おい、キミ」
「……あ? 死人は黙ってなよ」
後ろから青年の肩をつかんだ紳士と、彼の前にいたサラはその瞬間、声をあげずに息を呑んだ。
青年はチラと紳士を睨んだが、その目……彼の視線はまるで、ナイフの先かなにかのように鋭かった。
それはサラが未だかつて見たことのないような、むき出しの憎悪そのものだった。
「……チッ」
その様子にひるんだ紳士は舌打ちをして後ずさり、踵を返してその場から離れていく。
サラはその場で立ち尽くした。
「……ねえ、サラちゃん」
教えてもない名前を呼ばれて少女は驚いた。
青年が一転、元の笑いを顔に張り付かせて、馴れ馴れしく話しかけてくる。
「こんな所にいたら凍え死んじゃうよお。 一緒においでよお」
「………」
「寒いでしょお? お腹が空いたでしょうお? 僕についてきなよ」
────ふらっ、と一歩。
サラが顔をこわばらせたまま青年に近付いたのは、年端もいかない少女の本能的な恐怖からだった。
「いいねえ……僕の名前はね…ふふ…どうしようかなあ」
サラの腕をつかんで引き寄せた青年がそのまま歩き始める。
「っあ……」
青年の大きな歩幅に、引きずられそうになったサラはよろけた。
青年は歩きながら、時々そんなサラを振り返っては、嬉しげに「ふふふ」と笑い続けるのだった。
