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緋色の罠

第6章 緋の遊戯〜疑惑

「すみません。照れ屋なもので」
「…あ、ああ別に。可愛らしいお嬢ちゃんですね」
「ありがとうございます。じゃあそろそろ。保育園に行くので」
「お気をつけて」
「メグ、バイバイしなさい」
「ユリちゃん、バイバイ」
「バイバイ、メグちゃん」

 女の子を後ろに乗せて去っていく自転車を見送りながら、さっきひらめいたことを考える。それは名前のことだった。

 昨日、木島さんはわたしを優莉(ユリ)と呼んだ。でも…彼に名前を教えた覚えはない。玄関の表札に書いてあるのは「松永」という苗字だけだ。彼の奥さんにも教えた記憶はない。

 木島家の人たちには、今、お子さんのメグちゃんに教えたのが初めてのはずである。夫は近所づきあいは苦手だから夫が教える訳がない。

 それなのに、どうしてわたしの名前を知ってるのだろう。

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