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約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever

第1章 邂逅~めぐりあい~

 言いにくいことではあるが、今―いや、これからの二人にとっては大切なことだし、言わなければならないことでもある。
 今日、莉彩は慎吾にそのことを話すつもりでいた。
 それにしても、慎吾は遅い。いつもなら、莉彩よりも早くに来て待っているはずなのに、何か来る途中であったのだろうか。それとも、急用でも?
 だが、慎吾は几帳面な男だ。急用ができれば、必ず電話が入るだろう。もしかして、やはり途中で事故にでも遭ったのか。
 莉彩は焦燥感に駆られ、元来た道を引き返し始めた。舗装はしてあるものの、細い道は車一台がやっと通り抜けられるほどの広さしかない。しばらく家も何もない道をゆくと、ぽつぽつと小さな店が見え始める。一応〝○○商店街〟となってはいるけれど、どう見ても商店街のようには見えず全く客が入っていない店ばかりで、おまけにシャッターを閉めたままのところも目立つ。
 莉彩の家はここから徒歩十五分くらいで、比較的民家の集まった閑静な住宅地といった雰囲気だ。少なくとも、今いる場所よりは数倍、都会的な場所である。
 では何故、二人の待ち合わせ場所がこんなへんぴところなのかといえば、慎吾がいつも高校の部活を終えてすぐに逢いにくるためだ。この商店街は駅のすぐ傍にあるのである。
 慎吾は日曜は午前中、朝練をこなし、それが終わると電車に飛び乗りY町まで帰ってくるのだ。二時間も電車に揺られて。
 疲れていることが多いのだろう。
―電車に乗ってるときは、いつも居眠りしてるよ。お陰で、車掌さんに顔憶えられてさ。毎日、よくそんなに寝てられるねって、嫌味かどうか判らない科白を言われたよ。
 と、頭をかいていたっけ。
「莉彩!」
 聞き慣れた声がして、莉彩は顔を綻ばせた。
 見れば、慎吾が前方からしきりに手を振っていた。莉彩からすると、慎吾は道の斜向かいに立っている。丁度、二人の間の距離は十メートルほどあるだろう。
 莉彩は顔を輝かせて、道を横切ろうとした。
 そのときだった。
 プッブーと烈しいクラクションが鳴り響き、莉彩は硬直した。
 厭な予感に打ち震えながら顔を上げると、狭い道の向こうから一台の車が走ってくるのが眼に入った。

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