
約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever
第1章 邂逅~めぐりあい~
「―!」
莉彩は息を呑んだ。
白のセダンが唸りを上げながら物凄いスピードでやって来る。猛り狂う飢えた猛獣のような勢いでこちらに突っ込んでくる。普段、この道をそのような気違いじみたスピードで走行する車はない。大体、車自体があまり通らないのだ。この道に多少なりとも人通りがあるのは、近くのY駅に電車が着いたときくらいのものだ。
「ああっ」
莉彩が叫び声を上げたのと、誰かの逞しい腕が莉彩を抱き止めたのは、ほぼ同時のことだ。
―もう、駄目。
莉彩は固く眼を瞑った。
自分はこのまま車に轢かれて、死んでしまうのだ。十六年しか生きられなくて、しかもこんな亡くなり方をするなんて、何という親不孝者なんだろう。
脳裡を嘆く両親の姿がよぎる。人前で感情を露わにすることのない父はぐっと歯を食いしばるだろうし、涙脆い母は感情を抑えられず、人眼もはばからず泣くだろう。
遠くで慎吾の呼び声が聞こえていたようにも思うけれど、莉彩には定かではなかった。
ただ、自分をしっかりと両腕で守るように抱え込んでくれたそのひとの力強さだけは、ちゃんと憶えていた。
莉彩を轢こうとしたセダンが相変わらずの猛スピードで走り去った後、慎吾は茫然とその場に立ち尽くしていた。
「嘘―だろ」
慎吾は我知らず呟いた。
思わず自分の頬をギュッとつねってみる。
それから一度眼を閉じて、更にゆっくりと開いてみても、現実は何も変わらなかった。
そんな馬鹿なことがあるはずもない。莉彩がたった今、通り過ぎたあの車に轢かれそうになったのを、自分は確かにこの眼で見た。
時間にすれば、ほんの数分どころか、何十秒というわずかな間の出来事だったろう。その間に、確かにそこにいたはずの少女が突然、姿を消してしまうなんて。
それとも、自分は何か悪い夢でも見ていたのだろうか。莉彩に逢いたい一心で心逸っていたから、ありもしない幻影でも見たというのだろうか。
莉彩は息を呑んだ。
白のセダンが唸りを上げながら物凄いスピードでやって来る。猛り狂う飢えた猛獣のような勢いでこちらに突っ込んでくる。普段、この道をそのような気違いじみたスピードで走行する車はない。大体、車自体があまり通らないのだ。この道に多少なりとも人通りがあるのは、近くのY駅に電車が着いたときくらいのものだ。
「ああっ」
莉彩が叫び声を上げたのと、誰かの逞しい腕が莉彩を抱き止めたのは、ほぼ同時のことだ。
―もう、駄目。
莉彩は固く眼を瞑った。
自分はこのまま車に轢かれて、死んでしまうのだ。十六年しか生きられなくて、しかもこんな亡くなり方をするなんて、何という親不孝者なんだろう。
脳裡を嘆く両親の姿がよぎる。人前で感情を露わにすることのない父はぐっと歯を食いしばるだろうし、涙脆い母は感情を抑えられず、人眼もはばからず泣くだろう。
遠くで慎吾の呼び声が聞こえていたようにも思うけれど、莉彩には定かではなかった。
ただ、自分をしっかりと両腕で守るように抱え込んでくれたそのひとの力強さだけは、ちゃんと憶えていた。
莉彩を轢こうとしたセダンが相変わらずの猛スピードで走り去った後、慎吾は茫然とその場に立ち尽くしていた。
「嘘―だろ」
慎吾は我知らず呟いた。
思わず自分の頬をギュッとつねってみる。
それから一度眼を閉じて、更にゆっくりと開いてみても、現実は何も変わらなかった。
そんな馬鹿なことがあるはずもない。莉彩がたった今、通り過ぎたあの車に轢かれそうになったのを、自分は確かにこの眼で見た。
時間にすれば、ほんの数分どころか、何十秒というわずかな間の出来事だったろう。その間に、確かにそこにいたはずの少女が突然、姿を消してしまうなんて。
それとも、自分は何か悪い夢でも見ていたのだろうか。莉彩に逢いたい一心で心逸っていたから、ありもしない幻影でも見たというのだろうか。
