テキストサイズ

約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever

第5章 想い

 この人たちが、この国が、この時代が懐かしくてたまらない、まるで、十年ぶりに本物のふるさとに帰ってきたみたいだ。
 その時、莉彩は改めて思った。
 この時代こそが自分の帰るべき時代であり、場所なのだと。
 一瞬、今朝見たばかりの母のいかにも心配そうな顔が浮かぶ。
―莉彩が十年前みたいに急にいなくなってしまったら、どうしようかと心配で居ても立ってもいられなくなるの。
 現代にいる両親のことを思えば、心は揺らぐ。しかし、今、この時代に戻ってこられたからといって、今回もまたいつまでとどまることができるのかは判らない。
 今は、ただ、あの男の生きるこの時代に再び来られたことを素直に歓ぶべきだろう。
 頬をつねってみる。大丈夫、ちゃんと痛みを感じる。これは夢ではなく、紛れもない現実なのだ。
 莉彩は慌てて周囲を眺め回す。だが、待ち人の姿はどこにもなかった。莉彩の胸に失望がどっと押し寄せる。
―私ったら、馬鹿ね。
 莉彩は自分を嗤った。
 仮にこれが夢ではなく、紛れもない現実だとしても、あの男が十年経った今も心変わりしてないと、どうして言える?
 それに、今があれから―王と別れてから十年後の時代なのかどうすらもまだ判らない。あの時代と近い時代でも、全く同じではないかもしれない。
 十年前、莉彩がこの時代にいたのは四ヵ月余りだったにも拘わらず、現代に還ったときには十数日しか経過していなかった。つまり、こちらとあちらでは時の流れるスピードが違うのだ。現代で十年きっかり過ぎたからといって、こちらの時代でも十年経ったとは必ずしも言えまい。
 もしかしたら、運良くあの男に逢えたとしても、あの男は赤ン坊かもしれないし、その逆に、とんでもない老人になっているかもしれない。
 莉彩が怖ろしさと不安に苛まれている時、ふいに背後から肩を掴まれた。
「娘さん」
 ハッとして振り返ると、莉彩とさして歳は変わらないであろうと思える若い男が佇んでいた。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ