テキストサイズ

約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever

第5章 想い

「どこから来たかは知れねえが、そんな妙ちくりんな格好で町中を歩いてたら、男どもに襲ってくれと自分から誘いかけてるようなものだぜ?」
 粗末な身なり、頭に薄汚れた鉢巻きをしていることから、その日暮らしの労働者だと判る。
「俺の家に来いよ。服くらいなら、古着屋で買ってやるからよ、なっ」
 素早く手を掴まれ、物凄い力で引っ張られた。
「は、放して」
 莉彩は悲鳴のような声を上げた。
 弾みで、莉彩の抱えていたリラの花束が地面に落ちた。その拍子に、花びらが散り零れる。
 男の手を振りほどこうとするけれど、まるで蛇が絡みつきでもしたかのように執拗に放れない。
「行く当てがねえのなら、ずっと家にいたって、俺は構やしねえんだぜ。俺は女房もいねえし、お前のような別嬪がずっと家にいてくれたら―」
 嫌らしげな薄笑いが男の顔に浮かんでいる。陽に灼けた貌は精悍といっても良いのかもしれないが、どことなく全体的に退廃的な感じのする男だ。大方は、見かけどおりの崩れた生活を送っているに相違ない。
 男の言葉が突如として途切れた。
「その女人に触るな」
 鋭い一喝が飛ぶ。莉彩が弾かれたように顔を上げると、莉彩の手を掴んだ男が逆に誰かに腕をねじり上げられていた。
「い、痛ぇな」
 男が顔を思いきりしかめる。
「生憎だな、この女は俺が先に眼をつけたんだから、俺のものだ」
 それでもまだ莉彩から手を放そうとせぬ男の腕が更にねじ上げられた。さして力を入れているようには見えないのに、ねじり上げられた男の顔は見る間に苦痛に歪み、血の気を失ってゆく。 
「う、腕が折れるじゃねえか」
 男が悲鳴を上げた。
 漸く男の手が放れ、莉彩はその隙に急いで男から離れる。
「お、おいッ、お前」
 しつこく逃さじと莉彩を追いかけようとする男の前に長身の男がスッと佇む。
 どうやら、莉彩の窮地を救ってくれたのは、この男のようだ。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ