
約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever
第6章 契り
そんな想いで莉彩は過ごしていた。
ある夜、莉彩の部屋に王が忍んでやって来た。宮殿に戻ってから、既にひと月近くが経とうとしていた。
王と二人だけで逢えるのは、これが初めてだ。莉彩は歓んで王を迎えた。
「国王(チユサン)殿下(チヨナー)、このようなお時間によろしいのでございますか?」
莉彩が生真面目に訊ねると、王は茶目っ気たっぷりに返してくる。
「口煩い副提調尚宮(チェジヨサングン)や大殿(テージヨン)内官(ネーガン)は置いてきた。今頃は予がどこにもいないのを見て、慌てふためいておることだろう」
十年前は三十歳だった王は確か四十歳になっているはずだが、その若々しさ、凛々しさは少しも変わってはいなかった。かえって十年の歳月が王者らしい風格や威厳を添えたようで、この自信に溢れた雄々しさに生来の輝かしい美貌が加わって、見惚れるほどである。
副提調尚宮といえば、かつて莉彩がリラの簪をしているのを見咎め、王の御前で叱り飛ばしたあの劉尚宮であった。
あのときのことを思い出し、莉彩は思わず笑ってしまった。
「よろしいのでございますか? 劉尚宮さまはお歳にございますゆえ、あまりご心労をおかけするのはよろしくないかと存じますが」
その控えめな意趣返しに、王は吹き出した。
「何だ、そなたもなかなか申すようになったな」
夜更けとて、王は公式の場で纏う龍袍から、ゆったりとした私服に着替えている。莉彩の方は昼間と変わらぬ女官の制服姿であった。
「十年も経てば、人は変わります」
肩をすくめる莉彩に、王が眼を見開く。
「そう―だな。莉彩、私は今年で、四十になった。十年前のように、もう若くはない。そなたの眼に、私はどのように見える?」
莉彩は少し首を傾げ、王をじいっと見つめた。
「ご立派になられたと思います。以前もご立派だと思っておりましたが、ますます国王さまとしての風格を備えられてきたようにお見受けします」
そこまで言って、莉彩はもどかしげに首を振った。
「ああ、じれったい。やっぱり、私はこの時代の人間ではないので、この時代の人にふさわしい物の言い方はできません」
その様子に、王が破顔する。
ある夜、莉彩の部屋に王が忍んでやって来た。宮殿に戻ってから、既にひと月近くが経とうとしていた。
王と二人だけで逢えるのは、これが初めてだ。莉彩は歓んで王を迎えた。
「国王(チユサン)殿下(チヨナー)、このようなお時間によろしいのでございますか?」
莉彩が生真面目に訊ねると、王は茶目っ気たっぷりに返してくる。
「口煩い副提調尚宮(チェジヨサングン)や大殿(テージヨン)内官(ネーガン)は置いてきた。今頃は予がどこにもいないのを見て、慌てふためいておることだろう」
十年前は三十歳だった王は確か四十歳になっているはずだが、その若々しさ、凛々しさは少しも変わってはいなかった。かえって十年の歳月が王者らしい風格や威厳を添えたようで、この自信に溢れた雄々しさに生来の輝かしい美貌が加わって、見惚れるほどである。
副提調尚宮といえば、かつて莉彩がリラの簪をしているのを見咎め、王の御前で叱り飛ばしたあの劉尚宮であった。
あのときのことを思い出し、莉彩は思わず笑ってしまった。
「よろしいのでございますか? 劉尚宮さまはお歳にございますゆえ、あまりご心労をおかけするのはよろしくないかと存じますが」
その控えめな意趣返しに、王は吹き出した。
「何だ、そなたもなかなか申すようになったな」
夜更けとて、王は公式の場で纏う龍袍から、ゆったりとした私服に着替えている。莉彩の方は昼間と変わらぬ女官の制服姿であった。
「十年も経てば、人は変わります」
肩をすくめる莉彩に、王が眼を見開く。
「そう―だな。莉彩、私は今年で、四十になった。十年前のように、もう若くはない。そなたの眼に、私はどのように見える?」
莉彩は少し首を傾げ、王をじいっと見つめた。
「ご立派になられたと思います。以前もご立派だと思っておりましたが、ますます国王さまとしての風格を備えられてきたようにお見受けします」
そこまで言って、莉彩はもどかしげに首を振った。
「ああ、じれったい。やっぱり、私はこの時代の人間ではないので、この時代の人にふさわしい物の言い方はできません」
その様子に、王が破顔する。
