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約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever

第6章 契り

「柔らかい手だ」
 王が莉彩の手を握り込んだその掌に少し力を込める。
「あ、あの」
 莉彩は狼狽えて手を引こうとするが、王の手はなかなか離れてはくれなかった。
 頬が熱くなるのは隠しようがない。
「可愛い手だな」
 片手で握りしめた莉彩の手を更にもう一方の手でも包み込み、莉彩の手は完全に王の両手に閉じ込められた形になった。
「お放し下さいッ」
 莉彩は動転するあまり、王に挟み込まれた自分の手をそこから夢中で引き抜いた。
 王自身もさして力を込めていなかったと見え、あっさりと手は抜けた。
 もしかして、また、怒らせてしまった―?
 莉彩が身を縮める。
 途端に、王が弾けたように笑い出した。
「こちらは相変わらずだな。成長したのは外見だけで、中身は十年前と変わらずの子どものままか」
「まぁ、失礼な。私は、もう子どもじゃありません」
 反省はどこへやら、頬を膨らませる莉彩に、王はますます愉しげに声を上げて笑った。
 ふと王の表情に翳りが差す。
 もう一度、そっと手を握られる。
 今度は莉彩も流石に抗わなかった。
「荒れているな」
 王は莉彩の小さな手を愛おしげに撫で、しげしげと眺める。
「随分と手が荒れている。女官と申しても、そなたは水仕事や掃除など下働きと同様の仕事をしていると聞いておる。苦労が多いのだろう。今の暮らしが辛くはないか?」
「いいえ。ちっとも辛くなんかありません。殿下、元々、私は身体を動かす方が好きなんです。むしろ、部屋でじっと大人しくしていなさいと言われる方が辛いくらい」
 莉彩が微笑むと、王もつられたように固い表情をわずかに緩ませた。
 思案顔になり、王がふと呟いた。
「莉彩、私の側室にならぬか」
「え―」
 最初、莉彩は王の科白の意味を計りかねた。
 が、ややあって、その意味を悟り、頬がまたカッと赤らむのが自分でも判った。
「それは、一体どういう―」
 どういう意味なのか。そんなことは訊かなくても判っている。

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